HbA1Cに関して
血中のブドウ糖(glucose)は,ヘモグロビンβ鎖の末端で,シッフ反応生成物を形成します。しかし,これは不安定なため,アマリド転位反応を経て,安定型のHbA1cを形成します。
これらの反応は,酵素が関与しない反応であるため,
HbA1cの血中濃度は,「過去1~2ヶ月間の平均の血糖コントロール状態」を反映することになります。
しかしながら,次の様な事態が生ずることがあります。
①高度の高血糖状態が存在しても,それに混じて,低血糖状態が混在すると,見せかけ上,HbA1cは,それ程高い値を示しません。
すなわち,「高度の高血糖状態」が,一定時間持続し,微小血管などに障害が生ずる時間があっても,HbA1cの値だけに固執して判断すると,「高度の高血糖状態」で経過する時間帯の存在に気付かないことになります。
②糖尿病薬やインスリンなどによる治療が始まると,実際には治療直後から血糖値は低下しているのですが,HbA1cの血中濃度は,「過去1~2ヶ月間の平均の血糖コントロール状態」を反映するため,HbA1cの値は,高止まりとなります。
従って,治療が開始されてから,HbA1cが低下するのには,数ヶ月がかかることになります。患者さんや,その家族の中には,HbA1c が高いのだから,「もう少しインスリン量を増やしたらどうでしょうか?」と言い出したり,あるいは,内心密かに「この医者は,のろのろしていて,藪医者なのではないか?」などと思うことがあるかもしれませんが,実は上記の様なわけです。あまりにも,急激にインスリン量を増やすと,低血糖発作が生じてしまうことになります。
入院状態で,血糖値が頻繁にチェックされている場合と異なり,外来でのインスリン治療では,インスリン量は,徐々に増加させることになります。
③貧血が急激に改善し,新しい赤血球の産生が高まっているときには,HbA1cは低下致します。何故かというと,新しく産生された赤血球のヘモグロビンに,ブドウ糖(glucose)が結合し,HbA1cが産生されるのに時間を要するからです。
また,溶血性貧血と言って,赤血球(通常は,赤血球が産生されてから,破壊されるまでには,平均120日間を要する)が早く破壊されて貧血に陥るような病気では,HbA1cは低下致します。
④老齢者や,鉄欠乏性貧血の状態では,赤血球を大切に使いますから,赤血球寿命が延長することになります。この様な時には,HbA1cは高くなります。
⑤その他,様々な要因により,血糖の推移に比較し,HbA1cは高くなったり,低くなったりします。
⑥また,全身状態に大きな変化がないのにもかかわらず,急にHbA1cの値が上昇したと言うことになると,短期間に,相当のカロリーを摂取した可能性を考慮することになります。正月明けにHbA1cが上昇する人がおりますが,おそらく,こんなわけだろうと思われます。
¶ 上記の様に,「HbA1cは糖尿病の指標にはならない」とでも言いたげな,インターネット上の記載は,HbA1cの一部の性質を誇張し,専門家を気取っている方々による文章と判断することになります。
¶ 様々な状況を考慮の上,HbA1cの値を考える場合には,糖尿病の治療の際に極めて重要な情報となります。
この文章を読まれる方々の多くは,私が治療している糖尿病患者さんだろうと思います。
従って,インターネット上に時折見られる,HbA1cを罵倒した様な,極端に誇張した文章を,そのまま鵜呑みにされないようにお願い致します。
