帯状疱疹・水痘ワクチンと,シングリックス・ワクチンの特性

・帯状疱疹・水痘ワクチン(日本製)

・シングリックス・ワクチン(英国のグラクソ・スミスクライン製)

の2種類のワクチンは,接種に要する費用も異なりますが,その医学的な性質はどの様に異なるのでしょう。

それを下記に解説いたします。

¶ 帯状疱疹・水痘ワクチン(日本製)

阪大微生物研究所に於いて始めて開発され,我が国に於いては1986年から販売されている。生ワクチンでるため,本体は弱毒化された水痘ウイルスである。このワクチン株は,「岡株」と呼ばれている。世界中の製薬会社が,この「岡株」を用いて,水痘ワクチンを作成してきたし,現在でも,世界中で広く使用されている。

2014年10月に乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」(今回接種するワクチン)が定期接種となりました。

生ワクチンであるため,ウイルスを接種することになるが,弱毒化されているため,発疹などを初めとする症状を起こすことはない。しかし,「免疫力の低下した人」に接種すると,全身でウイルスが増生するため,「免疫力の低下した人」に接種する際には,注意を要し,医師の判断に任せられることになる。

その点,シングリックス・ワクチンは,サブユニット・ワクチンであるため(生ワクチンではない),「免疫力の低下した人」に接種しても安全である。

また,日本のある予防接種の専門書には,水痘ワクチンに関して「接種後再発を防ぐにはワクチン2回接種が有効で,将来の帯状疱疹の発症も予防できる」と記載されている。勿論,2回接種を希望される方は,2回目は,調布市の補助はありませんので,全額自己負担で接種を受けることになります。

私事ですが,日本製の帯状疱疹ワクチンを,私自身が接種を受けました。ところが,その丁度1年後に,私自身が右胸部に帯状疱疹を発症しました。しかしながら,ワクチン接種のお陰なのでしょうか,また「さくらクリニックの薬局」には,抗ウイルス薬が於いてあったので,直ちに服用を開始したこともあり,非常に軽症で済み,何の後遺症も残りませんでした。

注:「さくらクリニック」は,できる限り,院内処方を行うことを原則としています。

「帯状疱疹かな?」と思ったら,直ちに医療機関を受診することが肝要です。「発疹発症から,3日以内でないと,抗ウイルス薬の効果がない」などと,大々的に記載しているホームページを見かけますが,これは少々誇張しすぎた表現でしょう。

ただし,なるべく早期の段階で服用を開始した方が経過や良好になることは事実でしょう。

さくらクリニックの薬局には,絶えず,少なくとも,2人分以上の抗ウイルス薬(バルトレックス)が保持されています。

¶ シングリックス・ワクチンの特性(英国のグラクソ・スミスクライン製)

論文上は,概ね,10年間の免疫効果があるとされる(下記論文)。

Immunogenicity of the Adjuvanted Recombinant Zoster Vaccine: Persistence and Anamnestic Response to Additional Doses Administered 10 Years After Primary Vaccination

上記論文の主張は下記の如くです。

シングリックスの連続2回接種の免疫防御反応は,高齢の人々の体内に,長期間,残存する。さらに,初回接種から10年後に再接種(3回目の接種)を行うと,更に強力な既往反応(anamnestic response)が,その後も持続する。

この論文に従うと,非接種者全員が,上記の如き経過を取るという保証はありませんが,概ね,多くの方が上記の如き経過をとるということになります。

★ 注釈: anamnestic response (免疫学上の専門用語) 既往反応: 一度獲得免疫を起こした抗原に,後日,再度,出会った場合の感染に対する防御反応で, 記憶に基づく二次反応

¶ ワクチンに対する評価は様々で,日本のワクチンハンドブックとして最も広く使用されている医学書の1つである,「予防接種の手引き:2022-23年度版」には,「シングリックスの有効性持続は,接種後4年まで確認されている」と記載されており,上記の論文とは,認識が異なるのかもしれません。しかし,この論述の基礎となる論文は,研究期間が短いため,10年後のことまで言及できないのも事実であり,真に耳を傾ける価値がある主張とは言い難い。

¶ 最も長期間にわたる調査は下記のサイトであり,これが最も信頼性があると思われ,また,理解しやすいグラフが提示されており,素人の方を納得させることも容易です。

長期追跡期間における帯状疱疹予防効果: 2つの臨床試験(ZOSTER-006/022)の延長試験:ZOSTER-049(第2回中間解析)(ただし,このサイトも「医療関係者のみ」が閲覧できるサイトとなっていますが,医療関係者かどうかに関しては,誰も調査する人はおりません。)

このサイトの中の,明快な棒グラフは,最後に紹介する「帯状疱疹ワクチン(名鉄病院予防接種センター)」の中にも引用されているため,ここで引用しても支障はなかろうと思います。

これを見ると,シングリックスの効果が評価に値することが,直感的に理解できます。

上記と同様なグラフが,下記サイト「帯状疱疹ワクチン(名鉄病院予防接種センター)」の22ページにも載せられていますので,ご参照ください。

上記,ごたごたと説明しましたが,下記の名鉄病院の予防接種センターのサイトは有益な情報を提供してくれますので,ここに紹介いたします。私は,名古屋市立大学医学部を卒業した関係上,名鉄病院・予防接種センターと面識があり,ワクチンで困った時には,直ちに名鉄病院・予防接種センターに質問のメールを致します。すると,直ちに返事が帰って来ます。大変助かっており,この場を借りて厚く御礼申し上げます。

帯状疱疹ワクチン(名鉄病院予防接種センター)

上記のサイトは,ポイントが,簡潔に記載されております。是非とも参照していただくよう,お願い致します。

何故,帯状疱疹の患者数が増加しているのか?

この質問に関しては,明確な回答は困難なのですが,一部の書物では,下記の如く説明されることもあります。

① 水痘ワクチンが定期接種化されたのは,2014年10月です。したがって,現在の高齢者は,水痘ワクチンの接種を受けていません。

② 小児期の水痘ワクチン接種が始まる前には,多数の小児が水痘に罹患していました。そのため,高齢者も,自然と,水痘ウイルスに暴露される機会がありました。その結果,高齢者の水痘ウイルスに対する免疫力は,水痘ウイルスに暴露されることにより,弱った免疫力が,再度活性化される仕組みになっていました。そのため,帯状疱疹の発生は比較的希でした。

③ところが,ワクチン接種が始まると,小児が水痘になることが殆どなくなりました。したがって,高齢者が水痘ウイルスに暴露される機会が減少しました。その結果,弱った免疫力が,再度,強い免疫力に増強される(ブースター効果)機会が減少しました。

④そのため,帯状疱疹の患者数が増加しました。

上記の如く,一見,理路整然としているようにも思われる説明なのですが,なんとなく,しっくりこないのです。例えば,前述に引用した「予防接種の手引き」は⒉年ごとに改訂されますが,4-5年前の版には,上記のように説明されていましたが,現在では,この説明は削除されています。

大多数の高齢者は,子供の頃,水痘ウイルスに感染していますが,ウイルスは,依然として,老齢者の神経節の内部に存在しているのです。そのため,帯状疱疹が生ずるのです。したがって,水痘ウイルスへの暴露という観点からすると,高齢者は,絶えず,水痘ウイルスに暴露されているのです。特に,高齢者が,体調を崩したときなどは,帯状疱疹を発症しなくとも,ウイルスは体内で増えているはずで,免疫系が活性化される機会が何度もあったはずなのです。

上記の①②③④の説明は納得がいきません。

理由は不明ですが,現実としては,帯状疱疹は,さくらクリニックで,昔と比べて,比較的頻繁に診療しているのが現状です。